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基本情報

所在地〒110-0007 東京都台東区上野公園13-9
アクセスJR「上野駅公園口」より徒歩10分
開館時間9:30~17:00、9:30〜~21:00(金・土曜日)
休館日月曜日(祝日の場合、翌日閉館)
入館料大人:1000円、大学生:500円
ホームページhttps://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=hall&hid=16

東京国立博物館 法隆寺宝物館

「東京国立博物館」は1872年にオープンした日本国内で最古を誇る博物館です。「本館」、「表慶館」、 「東洋館」、「平成館」、「法隆寺宝物館」の5つからなり、「法隆寺宝物館」は1962年に竣工しました。奈良県斑鳩市の法隆寺でかつて所蔵されていた宝物、約300点を保管しています。

これらの宝物は、廃仏毀釈で困窮していた法隆寺に皇室が一万円を下賜する見返りとして、1878年に法隆寺から皇室に献納されました。やがて国のものとして移管され、1964年にそれらを保管・公開する目的で東京国立博物館に納められました。

しかし当初の宝物館は宝物を保存する目的で、公開は週に1回までと限られていました。そこで当初の法隆寺宝物館を、谷口吉生氏の設計により建て替えられ、1999年に竣工しました。建物は鉄筋コンクリート造(一部鉄鋼造)の地下1階、地上4階建てで、新にレストランと資料室を備えたほか7つの展示室からなります。

美術館へのアプローチ

東京国立博物館の正面入口を入ると左にひっそりとした道があります。しばらく進むと急にひらけた空の下に直線美の美術館が出現します。美術館エントランスホールをおおらかに覆う庇が来場者を出迎えているようにも見えます。

ひっそりとした小道の先に突如現れる建物

しかし美術館エントランスへはそのまま直進できず、水面を回るようなアプローチになっています。水面は建物と来場者とある一定の距離感を保ち、すぐには私たちの方に近寄ってきません。さらにタイルや壁仕上げ、ガラスサッシ、柱、柵は全て同じ目地に統一され、徹底的に仕上げられた幾何学は、緊張ある空気を漂わせます。これから法隆寺の宝物を拝見するのですから来場者に対し、多少の気のゆるみさえ許しません。

絶対的な水平を成す水面と厳密な幾何学の緊張感漂うアプローチ

庇とエントランスホール

アプローチを進むとついに、エントランスホールと水面に接続されたテラスをひとつに覆う高さ13m程の庇に出迎えられます。

テラス

しかし庇とは対照的に、美術館入り口はは2m程と低く抑えられています。歓迎されたもの束の間、あまりにも気軽に入り難いエントランスです。

美術館入り口

敷居の高い入り口を潜ると、来場者の意識は建物に対して内向けになります。しかしその先には、高さ9mの明るいエントランスホールが広がっています。全面ガラス張と穏やかなトップライトに包まれた空間は、先ほどの狭い入り口が嘘のかのように、開放的で外と一体となり、驚きを隠せません。前面カーテンウォールの3分の1ほどを切り取った開口は日本の軒下を思わせるように、エントランスホール、テラスそしてその先に広がる水面を連続させます。

テラスとエントランスホールを一体に覆う庇は、適切に日差しを遮ります。

日本の縁側スケールで設計されたルーバーは、外の景色を切り取りやわらかな光を充満させる

展示室

第2展示室は26体の「金銅仏」が展示されています。「金銅仏」とは金メッキした銅製の仏像で、ほとんどが7世紀のものです。横7列、縦4列に整列された金銅仏の展示室は、厳かな緊張感が漂っています。

第2展示室 26体の「金銅仏」様
7×4の展示マスのうち2マス分が柱になっている

緊張から解放へ

2階第5・6・7展示室へ続く階段(第1展示室)をいかして、7世紀飛鳥時代の「灌頂幡」のレプカが展示されています。全長5mで実際は10mあるとされていました。上りながらさまざまな角度で鑑賞できます。

先ほどの仏像が支配していた空間からは一旦解放されます。

階段を利用したこの展示室

2階展示室

2階の展示室には仏教には欠かせない、国宝の香炉や水瓶が展示されています。

第3展示室

現実世界に戻る

展示室を出ると、先ほどのエントランスホールに戻ります。ルーバ越しに切り取られた外の景色は現実世界へと戻されます。

全ての展示室を見終わると現実世界に戻されたかのように、外の景色が切り取られる

谷口氏の美術館設計は最後に、一番最初に入ったホールを見下ろすような動線計画をします。するとはじめにホールのあそこにいた自分を想像し比較することで、全てから解放されたかのように帰ることができます。

エントランスホールを見下ろす

最後にエントランスホール内の階段を下って帰ります。外のような光が満ちたホールは、閉ざされた鉄筋コンクリート造(RC造)の展示室からは解放されたかのように、鑑賞した疲れが吹き飛びます。

巨大な空間が展示室から解放される 左の壁がライムストーン仕上げの展示室を収めたRC造

外界と閉ざされた世界を緩やかに繋ぐ装置

低く抑えられた入り口と半屋外のような巨大なエントラン・庇下空間は、閉ざされた鉄筋コンクリート造の展示世界と外界を緩やかにつなぐ装置と言えます。そんな徐々に奥まっていくような空間体験は、仏像と適切な感情で鑑賞することができます。

また帰りも急に外の世界が広がることなく、緩やかに来場者を外の世界へ戻す装置でもあります。ホールを一巡しながらルーバー越しに見る景色は、やがて階段を降りると水面越しに景色が連続し、やがて完全なる元の世界へと帰っていくのです。

 展示室を収めたRC造に前にS造のエントランスホール装置が隣接する 巨大な庇はRC壁側には掛かっていない