三重県の建築めぐり/おすすめ有名建築一覧【2選】

伊賀市中央図書館(伊賀市旧上野市庁舎 再生)

基本情報

設計者

新築:坂倉準三建築研究所 改修:MARU。architecture

建築概要

伊賀市中央図書館はもともと、上野市市庁舎として坂倉準三建築研究所の設計により1964年に竣工しました。2019年に市庁舎機能が新庁舎へ移転した後、耐震性や費用の課題から一時は解体構想もありましたが、建築築専門家や市民の保存運動を経て保存・活用方針へと舵が切定されました。公共施設に民間収益施設を併設する複合リノベーション(PFI事業)として推進され、事業主体はSPC(特定目的会社)である「株式会社伊賀市にぎわいパートナーズ」、改修設計者は2022年に公募型プロポーザルを行い、MARU。architectureが選定されました。

1階は図書館機能、中2階はカフェ、物販、飲食可能な閲覧席、2階はスモールブティックホテルのミクストユースになっています。改修は構造壁の補強、床仕上げ・設備ダクトの更新などインテリア上必要最低限にとどまっており、当時の面影を色濃く残しています。元々の設計では2つの南北方向の梁間スペースがダクトスペースとして設計され、梁のスリーブを空調の吹出し口として設計することで、打ち放しの世界観を設備が台無しにすることなく、構造体と設備計画が一体となったとても丁寧な設計がなされていました。今回はそのスリーブを一部空調のダクトルートとして白い管を通し、梁間以外のスペースにも空調の送風口を増設することで、元の世界観を壊すことなく、ダクトがインテリアとして良いアクセントとなっています。ダクトスペースはパンチングメタルの天井仕上げにすることで、より打ち放しの空間に溶け込んだ設計となっています。

梁間のダクトスペースはパンチングメタルの天井仕上げにより打ち放しの世界観に溶け込む 坂倉準三による十分な梁間のダクトスペースの設計により、その後の改修による現代的な設備に対応可能となり、コンクリート打放しの世界観を壊さずに改修が可能となった

またメッシュの幕が照明に照らされることで、インテリアとして天井全体を柔らかな空間にし、打放しの土木のようなコッテリとした空間とは別のものにしています。人口減少が進む中で、既存ストックをコンバージョンし、巨匠によるモダン空間を継承・現代的な用途に改修することで、近隣地域のみならず世界中から訪問客の名所となり、お金をかけずに地域経済に大きなメリットをもたらす今後の建築のあり方の手本となる作品です。

サッシは既存 照明に照らされたメッシュの膜によって天井全体を柔らかな空間とすることで、打放しのコッテリとした印象を和らげている 新たに新設された空調ダクトもそれに合わせて白く塗られる

広場と書庫 BOOKMARK STORAGE

基本情報

設計者

山﨑健太郎デザインワークショップ 服部建築事務所(設計協力)

建築概要

地元に事業所を構える世界的な工作機械メーカーであるDMG森精機は、国内外からの取引先・顧客が集まる非常に重要な拠点となっています。しかし、最寄り駅であるJR関西本線新堂駅の周辺は、人口減少や利用者の減少の課題がありました。そこで自社主導で駅前再開発プロジェクトを手掛け、誕生したのが「BOOKMARK STORAGE」です。駅前周辺の賑わい創出と住みやすい環境整備を目指し、DMG森精機の蔵書を集めた図書館と、市立図書館分館を併設することで、伊賀市とDMG森精機が共同で運営・管理を行っています。

特徴は施設の規模と近隣地域との関係です。JR新堂駅は1日の平均乗降客数246人(2025年)と、とても小さな駅です。また駅周辺は1つの大型スーパー、ガソリンスタンド、数カ所の工場、小学校、コンビニ、小さな住宅地、田んぼがあるのみの、幹線道路が一部ロードサイド化された集落で、外部からの利用者のアクセスは1時間に1本の鉄道、1日に数本程度の路線バス、自家用車と限定されています。民間の資本提供とはいえ公共図書館としての立地とアクセスの難易度は高いといえます。本来図書館にような公共的な用途は建物が密集した都市の中に立地することで、徒歩での集客を前提とし、その周辺用途とのかいわい性を創出する機会を提供します。都市の中でなくてもアクセスが悪い場所に立地する場合は、集客の起爆剤になるように建物を巨大化させ自動車でのアクセスを前提にることが一般的です。しかし本図書館は公共空間としての良好なアクセスをもちえず、さらに建物の規模も駅や周辺の集落と同じスケールで設計され、田園風景の中に小さな図書館がポツンと佇んでいるかのようです。

田畑に都市の商業空間が広大に点在するようになると、いわゆるロードサイド店と田園風景が混在した都市とも集落ともいえない自動車ので移動が前提となる生活圏が生まれます。しかし本プロジェクトではローカル線の鉄道駅に立地することで、近隣の広域圏の利用者をターゲットにしつつも集落における用途の立地が可能になりました。車社会の生活圏でありながら駅のスケール感や周りの田園風景に馴染むような「ローカル線の駅前」の「小ぶりで静かな佇まい」として設計することで、集落という場所に公共的な役割を無理なく成立させています。集落と、ロードサイド店による郊外都市のどっちつかずの場所における公共空間の立地が今までの近代都市計画になかった建物の規模を生み出している点がおもしろいです。実際に利用者は当駅で途中下車し、1時間本を読んでから次の電車に乗ったり、電車から降りて図書館を利用し、車で迎えに来てもうことで交通の切り替えの場を提供することも可能です。まさに従来の「目的地としてわざわざ行く場所」ではなく、移動の合間に立ち寄る「通過点(ハブ)としての図書館」という新しい役割を獲得しています。

1階と2階の照度の違い

設計は大小ふたつの切妻屋根のボリュームがずらして配置されており、両建物2階が回廊となった2層吹き抜けの空間になっています。1階は外壁がガラス張りの空間、2階は本棚の壁面に囲まれた暗い空間になっており、トップライトが強調された空間になっています。1階と2階で照度が異なっており、階ごとに居心地の違いを生み出しています。残念な点は全体の空間を回廊と中央の吹抜けで解き切っており単調な空間になっていることです。特に1階は伽藍堂のような空間になっているため、場所ごとの居心地の違いがなく(両建物間のブリッジ下は天高が低く人も集まっているが)、せっかくの建物の立地と規模、集落における利用者の特徴をいかせていないのが残念です。すなわちこの立地における少し特殊な利用者同士の距離感のあり方をもっとデザインできたはずです。おもしろい図書館の立地、規模だったが故に設計が少し残念な印象です。

2階回廊と本棚
小さい建物より奥の大きい建物を見通す 両建物はずらして配置される