木造のプロテスタント教会!「駿府教会」をご紹介します。西沢大良氏設計

基本情報

所在地〒420-0838
静岡県静岡市葵区相生町15-1
アクセス・JR「静岡駅」より徒歩13分
・静岡鉄道「日吉町駅」より徒歩2分
見学方法事前にお問合わせください
問合わせURL
HPhttps://www.sunpukyokai.org/

内壁

「駿府教会」はキリスト教プロテスタント教会として、西沢大良氏の設計により2008年に竣工しました。主に礼拝空間・牧師住居・事務室からなり、礼拝空間は地上1階建ての四角いボリューム、住居・事務所は2階建の切妻屋根となっており、いずれも木造です。

外観 手前の四角いボリュームが礼拝堂, 奥の切妻屋根が牧師住居

礼拝空間は外観が平面約10.6×10.6m、高さ9mの四角いボリュームとなっており、内部は平面9.1m×9.1m高さ7.3mの空間になっています。壁の厚さは76cm、屋根の厚さは1.3mほどあり、この厚い壁は中に人が入れるほどの隙間があります。

9.1×9.1×7.3mの礼拝空間

建物の構造は主に木のトラス柱となっており、内壁は内から順に仕上げ材(パイン材)、構造体(トラス柱)、吸音材となっており、仕上げ材と吸音材の間は50cmの隙間があります。仕上げ材は床から天井にかけて徐々に板張りからルーバーへとグラデーショナルに変わっていきます。

50cmほどある仕上げ材と吸音材の隙間 トラス柱を見上げる

仕上げ材のパイン材は、居住域では板張りになっており反響板として機能しています。一方隙間がある天井部では天井からのトップライトを室内に取り入れるためのルーバ、さらにルーバーは残音を内側の吸音材に吸収させるための音が通る隙間として機能しています。すなわち音の反響・トップライトの強弱を仕上げ材の疎密さで調節しているのです。結果美しくグラデーショナルな内部仕上げになっています。

やさしく室内に充満する自然光

パイン材によって包まれた室内は木の香りが充満しています。50cmの隙間から優しく包み込むように光が差し込み、まるで森の中にいるかのようです。単なる均質な9.1m×9.1m×7.3mの気積ではなく、音や光、匂いがコントロールされ、均質な近代建築の思想とは大きくかけ離れたワンルームになっています。

高さ2mほどに極端に低く抑えられた入口はmその先に広がる7.5mの内部を広く感じさせる
祭壇からエントランスホールを見渡す 3方向に自由に椅子の向きを変えられるようなプランになっている
玄関方を見渡す 奥の壁面扉は、トラス柱の隙間を活用した収納スペースとなっている

外壁

外壁仕上げにはレッドシダー材が使われています。牧師住居部の切妻ボリュームのレッドシダー材はカンナ掛けされたパイン材が仕上げられていますが、礼拝空間の四角いボリュームの外壁にはわざとカンナ掛けされていない材となっています。

手前がカンナ掛されていない変色したレッドシダー材 奥の切妻の材とは明らかに外見が異なる

するとカンナ掛けされていないレッドシダー材は雨によって割れ炭化し、黒い外観へと変色していることがわかります。

左のカンナ掛けされたレッドシダー材と右の無加工の変色した割れ肌板仕上げ

意匠壁の中をデザインする第二の空間

近代建築の鉄やガラス、コンクリートといった躯体は、屋外から遮断され機械によりコントロールされた快適な人工環境を生み出しています。近年ハウスメーカーによる木造住宅も高断熱・空調・ガラスサッシ性能の向上により、廉価で快適な住環境を全国どこにでも建てられるようになりました。

しかし近代建築やハウスメーカーの「室内」は天井の高さや平面の寸法に関係なくどこでも同じような「気積の質」を量産しています。外部環境から一旦切り離すことで自由度の高い設計が可能となりましたが、いくら建築家が天井高さや平面寸法、開口の大きさ・位置、壁・屋根の配置・形状、部屋同士の位置関係を意匠的にデザインしようと、それらは所詮物理的な気積形状のデザインにどどまっており、室内の空気の質という観点から見ると、ほとんど同じ室内環境と言えます。

例えどんなに豊富な形状のコンクリートの空間をつくり出したとしても、その室内の質(湿度や断熱による室温、匂い、室内照度)は建つ場所関係なくどれも同じですし、少なくとも場所の環境による室内空気の質の差異に着目して設計を行う建築家は皆無と言えます。同氏の建築はその物理的な躯体形状の創作実験にとどまらず、室内の空気の質をデザインするという点が大きな特徴です。

その異質な気積を生み出すための装置を、躯体のレイヤーによってつくりだしています。

例えば建築内外を仕切る壁にはさまざまな機能が備わっています。木造ですと外から外装材、通気胴縁、防水シート、構造用合板、柱・梁(構造体)、断熱材、内装材の下地、内装材などがあります。しかしハウスメーカーは一枚の高性能の壁として高断熱・高気密性を売りにしたり、建築家は壁の外と内の空間や私たちが意匠的に認識する躯体の一番外である仕上げしかデザインの対象にしません。同氏の建築は、私たちが空間として認識できる躯体の一番外(仕上げ)だけでなく、躯体内部のレイヤーを躯体の内と外の環境の調整シロとして異常な厚さのレイヤーを設定したり、室内環境をパッシブ的にコントロールする装置として躯体内部に第2の裏方空間を設計します。

駿府教会では教会として、外の電車の音を消すための防音層を多めに設定したり、反響や吸音、トップライトの調整シロとして50cmのレイヤーを設け、それらを居住域によって仕上げ材の疎密によってコントロールしています。他の住宅作品では全室に通風のための通風層を厚く設けたり、室内の自然光による照度環境を生み出すためにライトルーム(階高高を高くし天井高さを低く抑え自然光が充満するための天井レイヤー)を設けたりと、室内と外を人工装置によってコントロールしない、その環境に依存した環境装置を躯体内部に設計しています。結果、極限までに躯体のスリムさを追求してきた近代建築とは反対に、異常な壁厚を伴った躯体が特徴です。