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基本情報
所在地 | 神奈川県川崎市多摩区南生田1-5-24 |
アクセス | 小田急線「読売ランド前駅」より徒歩13分 |
見学方法 | 展覧会情報 |
HP | https://www.motoyoshikuni.com/blog |
階段の表
「粟津邸」はグラフィックデザイナーの粟津清の住宅兼アトリエとして、1964年に原広司の設計により竣工しました。
建物は地上3階建ての鉄筋コンクリート造で、もともと斜面地だったところを切り拓いて建てられました。敷地半分に細長い建物が配置され、残り半分は斜面の庭になっています。
敷地の横の斜路に沿って建物は建ち、坂の中腹(3階)に玄関アプローチが接続されています。そのため道路の擁壁(土木)と建築が一体になったかのように両者が等価に扱われています。
3階玄関を入ると階段室兼ホールとなっており、3階からいちばん下の1階アトリエまで建物の中央に一直線に階段が伸びています。建物全体は中央の階段を中心に左右対称の配置設計になっています。
2階のホールは吹抜けになっており、アクリルドーム天井よりトップライトがめいいっぱい降り注ぎます。壁は木の面仕上げ、床は玄関アプローチから続く黒いクリンカータイルとなっています。
中央階段を1階に降りるとアトリエになっています。天井は3階までの高さがあり、壁はコンクリート打ち放し、床は玄関とホールと同じクリンカータイルとなっています。
実際に入ると住宅とは思えない寸法や内部仕上げになっています。
階段を通して玄関からホール(ホールに面した子供部屋・書斎)、アトリエが見通せるようになっており、天井のトップライトや床の黒タイル、壁の木の面仕上げに統一されています。
階段の裏
2階の階段の裏に回ると居間、キッチン、寝室など居住空間になっています。
実は建物全体が階段の表/裏で、創作空間/居住空間にゾーニングされています。道路から連続する3階の玄関に入るとそこには住宅とは思えない室内風景が広がっています。それは①仕上げ(外部と思わせるような床タイル・木のつら壁面、1階アトリエの打ち放しRC壁)、②寸法(3階玄関から1階アトリエまでの異常に遠いい階段通路、1階アトリエの天井高さ)、③照度(住宅には十分すぎる2階ホール・1階アトリエのトップライト)によるものです。
一方「階段裏」にある居住の部屋は①木のフローリング、②住宅の寸法③住宅の照度のための開口になっています。「階段表」はあくまで斜路から連続する「街」を住宅の中に取り組んだ空間であり、それに面するように「階段の裏」に居住空間があります。
1階階段裏はサービス洗面、トイレ、ランドリーのサービスヤードや茶室があります。
茶室の外はドライエリアになっており、1階の室内にも必要最低限の光が差し込みます。
都市を住宅に持ち込む
住宅兼アトリエの粟津邸は、通常の住宅になかった要素を内部に持ち込みました。
①寸法(奥行き、天高)
②仕上げ(通常屋外に用いられるクリンカータイル・木つら仕上げ・RC打ち放し)
③照度(トップライト)
特にアトリエは木仕上げがRC外壁に入れ子になったような、視覚的に内と外の反転を起こしています。
これらは屋外の玄関アプローチから続く同一の寸法体系、仕上げ、照度になっており、都市のコンテクストが3階から2階、1階のアトリエまで持ち込まれます。左右対称の緊張感ある空間は自然光や両側から通風が入り、均質な空間に唯一の変化がもたらされます。
またその都市としての階段室に、居住のための居住空間が面し、階段の表/裏でアトリエ/居住空間がゾーニングされています。居住エリアは住居の寸法・仕上げ・照度(必要最低限の開口)になっています。
住宅兼アトリエとして創作/リラックスの切り替えを行うために、同じ住宅内で都市/住宅が完結しており、それを斜面地という都市の地形を用いて階段の表裏でゾーニングしています。
ここでしか実現できない住宅がそこにはあります。