今回は、東京都の密集した住宅街の一角に建つ西沢立衛氏設計の「森山邸」をご紹介したいと思います。

一般的な集合住宅

一般的な集合住宅の設計手法は、1つの箱のなかにパズルのように住戸を配置し、隣り合う部屋同士の独立性を高めてプライヴェートを保つかに焦点が当てらますが、森山邸は、与えられた敷地の中に部屋をひとつひとつ配置し、いかに部屋同士がつながりを持つかということが考えられています。

西沢氏によると、アパートのように、界壁で隣同士を仕切ると、壁越しに聞こえて来る隣の声が騒音に聞こえてきますが、各住戸を庭で分けるならば、庭越しに聞こえる音はむしろ賑わいというか、隣の人の雰囲気として感じることができるといいます。

たしかに戸建て住宅の、塀越しに聞こえてくる隣人の犬の鳴き声や、包丁の音、雨戸を閉める音や車のエンジンの音などから「今隣の家の人はこんなことをやっているんだな」と想像して楽しむ一面があるかと思います。

しかしマンションのような集合住宅は隣同士の部屋で騒音などのトラブルをよく耳にします。

中庭を介してできる「つながり」と「プライバシー」

「森山邸」は、敷地にランダムに箱が配置され、箱はたったひとつの部屋によって構成されています。

そうすることで箱のボリュームが必要以上に大きくなることなく、周囲の住宅の半分の高さに押さえ込むことができるとともに、箱同士の隙間でできた中庭が、緩衝空間として互いの部屋がつながりを求つつ、各部屋のプライヴェート性を保つ役割を持っています。

また閉鎖的になりがちな小さな箱は、大きな開口部が設け、隣の建物とずらすことで、各部屋同士の目線が重ならないように設計されています。