世界初!車が自走可能な屋内展示場「西日本総合展示場」をご紹介します。磯崎新アトリエ設計

基本情報

所在地〒802-0001 福岡県北九州市小倉北区浅野3-7-1
アクセスJR「小倉駅」より徒歩10分
HPhttps://hello-kitakyushu.or.jp/nishiten-honkan/

革命建築計画

建物外観 

西日本総合展示場は磯崎新アトリエの設計により1976年に竣工しました。建物は地上2階建ての鉄筋コンクリート造、屋根は斜張式の鉄骨吊構造になっています。

建物の大部分が地上1階建(1階:約9,606㎡, 2階:約1,630㎡)の約50×170m・高さ約10mの長方形のプランになっており、その周囲部に鉄筋コンクリート造2階建ての風除室、車搬入ぐち、倉庫、パイプシャフト、食堂、会議室、更衣室、観客席などが取り巻いています。

出典:新建築 平面図
約50×170×10mのワンルームと周囲を取り囲むエントランス・搬入口・バックヤード

1976年当時巨大化する企業活動に対応すべく、主に国内外の工業製品をPR・振興する目的で、屋内型総合展示場が計画されました。展示空間は多様な企業活動のPR活動に対応可能な50×170×10mのワンルームとなっており、トラックや車が直接展示室に搬出入可能となっています。

展示空間 床のピットは屋台が行えるように排給水・配電が収められる 奥に中展示場
中展示場はスポーツイベントも行えるフローリング仕上げ
屋外展示室

自動車が直接展示室を自走し、その場でステージやブースを設営したり、キッチンカーとして出店したりするなど、従来の美術館や市場などの搬出入・設営(例:搬入口→搬入庫→搬入→設置・設営→撤収→搬出)の建築計画的な概念を覆しました。巨大なワンルームが「搬出入庫」兼「展示室」となることで、搬入庫から展示室まで動線・部屋を一切介さずにスムーズな準備・撤収が可能となり、即興で仮説の展示空間や展示コーナー、家具の設置・撤収を行えるようになりました。

搬出入シャッターが4箇所設けられ直接トラックの出入りが可能となっている

結果収益が発生しないイベント会期以外の、無駄な準備期間を短縮化し、大小様々な規模のイベントに対応可能となりました。現在コミケやライブで知られる東京ビックサイトや幕張メッセですが、西日本総合展示場が世界で初の屋内型コンベンションセンターの原型となった建築です。

それまで自動車が直接自走して積み下ろしを行う概念はありませんでした。

都市に言及しなくなった建築家

この巨大な空間は交通・家具(大小様々)・人をも等価に扱ってしまう寛容さがあります。当初急速なモータリゼーションを遂げた日本ですが、どの都市計画や建築設計をみても当たり前ですが人と交通を別の設計対象として扱います。住宅には人が住むための居室があり、玄関を出ると車が駐車する駐車場があり、敷地を出ると都市を移動するための道路があり、それぞれには適した寸法体系を備えています。都市全体でみると建築が点で、点と点を道路による線で結ばれ、建築設計者はその点(敷地境界)の中で人のための空間をデザインします。敷地境界の中で都市的な要素がごく一部あり、それは駐車場です。しかし普通は建築と都市は別の設計対象として扱れ、それぞれ建築家・都市計画家が行います。

現在建築家は都市の設計・計画を行わなくなっただけでなく、都市の問題すら言及しなくなりました。一昔前は丹下健三が国家的な都市計画(主に交通)を打ち出していましたが、現在ではそのビジョンすらも出てきません。少なくとも交通に言及しなければ都市はいつまで経っても変わりません。

そんな来るモータリゼーションにおける新しい建築の型として「西日本総合展示場」が誕生しました。当建築は都市に接続された駐車場とその玄関である搬入口そして建築空間を全て等価に扱うことで、今まで見えてこなかった新しい都市と建築のあり方が打ち出しました。

それは訪問者と出展者の両者の、都市的身体スケールの延長線上に交わる場所にこの空間が置かれているということです。訪問者は自家用自動車を駐車場に停め玄関ホールに入っていき、出展者はトラックで直接室内に搬入を行います。どちらもモータリゼーションがもたらした自動車という身体的拡張機(道路はその身体拡張機のパスである)により、それぞれの場所からこの空間にやってきます。実際に空間に入るのは生身の人間ですが、ワンルームの両側に設けられた駐車場に全面的に面することで、都市からの身体と内部空間の接続を円滑に行なっており、その都市的身体スケールに対応すべく、巨大な空間がそこに置かれているのです。

搬出入用の駐車場

地方都市で多くの駅前商店街が消滅していますが、大型ショッピングモールやロードサイド店はモータリゼーションによって都市的身体スケールを獲得した移動民の巨大な受け皿(駐車場)を設けることで、都内と変わらないより多くの集客を実現しています。さらに現在ではECサイトなどのインターネットショッピングがそのあり方さえも変えています。

西日本総合展示場はそうあった意味で、竣工から50年近く経った現在でも現役で使われ続けています。それはこの建築が経年で老朽化しない限り使われ続けるでしょう(日本の建物の多くは寿命を迎える前に取り壊される)。

今の建築家は一体何を何をしているのでしょうか。