万能すぎるM字アーチ!「銀座線渋谷駅」をご紹介します。内藤廣設計 東京都渋谷区

基本情報

所在地東京都渋谷区渋谷2-21-1
乗り入れ路線東京メトロ銀座線

銀座線渋谷駅

銀座線渋谷駅は当時東京高速鉄道の渋谷〜新橋間の開通に伴い、1939年に開業しました。後に日本で最初の地下鉄、東京地下鉄銀座線(浅草〜新橋)と相互直通運転する形で浅草〜渋谷間が現在の銀座線となりました。旧銀座線渋谷駅は「旧東急百貨店西館」3階を発着していましたが、ではなぜ東急のビルの中に東京メトロの駅が建設されたのでしょうか。

当時の銀座線渋谷〜新橋間は、東京横浜電鉄(現東急電鉄)の関係会社である東京高速鉄道のものでした。しかし渋谷駅開業に際して、当時競合関係であった「玉川電気鉄道(現東急田園都市線)」が旧東急百貨店の開発権を握っていました。そこで地下鉄開業前の1936年に玉川電気鉄道を傘下にし、2階に玉川電気鉄道渋谷駅、3階に東京高速鉄道渋谷駅を建設することでビル一体の開発を東急が進めたのでした。

結果ひとつのビルの中に収めることで、当時渋谷駅止まりだった東急電鉄は、スムーズな地下鉄との乗り換えと沿線住民の都心への利便性向上を実現しました。

すなわち当時の渋谷〜新橋間の銀座線は、現在の東急電鉄の関連会社のものでしたので、同じ東急のビルの中に銀座線渋谷駅が建設されたのでした。

東急百貨店西館3階にあった旧銀座線渋谷駅

銀座線渋谷駅の難工事

東京メトロ銀座線新駅舎は内藤廣氏の設計により2019年12月に竣工し、2020年1月3日より使用を開始しました。銀座線渋谷駅の移設建設にあたり最大の課題となったのは、従来の駅導線や下を走る明治通り・バスロータリーなどの交通、既存の駅舎を発着する銀座線への影響ななるべく最小限に抑え、いかに短い期間で安全に建設するかです。

右のシェルが銀座線の新駅舎、下に明治通りが通る

そこで採用されたのがM字の鉄骨アーチによる「スライド工法」です。駅舎を新設するにはバスロータリーや明治通り、さらに電車の運行の妨げにならないように、十分なクレーンや足場を組むためのスペースがありませんでした。

旧渋谷駅ホームより 工事は通常運行する銀座線の線路上で行われた
現在も奥の引き込み線から新駅舎へ電車が走る

これは鉄骨などの搬入に必要な、クレーンを組み立てるための十分なスペースがない場合、クレーン作業ができるエリアであらかじめ鉄骨や装置の組み立て、取り付けを行い所定の位置までスライドさせるというものです。

まず、十分な作業スペースを確保できる場所で、駅舎の屋根としてのM字アーチを組み立てるための作業台を銀座線の真上に設置し、そこでアーチの搬入・組み立てをします。そしてあらかじめ台車の上に載せられた鉄骨アーチは計9回にわけて、所定の位置までスライドされました。

出典:東京メトロ
出典:東京メトロ

アーチという発明品

「アーチ」という特性に着目してみると、いかにそれが「スライド工法」に適しているということがわかります。アーチとはアーチ自身の圧縮力で荷重を支えることで、2点の接地面のみで大空間を可能にします。アーチには通常水平力が発生しますが、今回使用されるのは鉄骨アーチですので、それ自体で成立しています。

鉄骨×アーチにより、2接地点をスライドレールにのせ、スライド工法を可能にし、またアーチ内の大空間内を通常運行する電車を通すための十分なスペースとして確保することができるというわけです。結果、全長110mにわたりアーチが連続したスタイリッシュで開放的な駅舎が完成しました。

アーチは2.5mスパンで計45本並びます。

開放的な駅舎
新たに「渋谷ヒカリエの」そばに銀座線改札が設置された