土がむき出しの美術館!?【青森県立美術館】をご紹介します!!青木淳氏設計 青森県青森市

基本情報

所在地〒038-0021 青森県青森市安田近野185
アクセス・「JR青森駅前6番バス停」より青森市営バス「三内丸山遺跡行」バス(20分)に乗車し、「県立美術館前」下車
・「新青森駅東口バス停」よりルートバスねぶたん号(10分)に乗車し、「県立美術館前」下車
・「三内丸山遺跡センター」より徒歩6分
開館時間9:00〜17:00
休館日毎月第2・第4月曜日、12月28日〜1月1日
休館日詳細はこちら
入館料一般:510円、大学生・高校生:300円、中学生・小学生:100円
HPhttp://www.aomori-museum.jp/ja/

地面を平行に掘る“トレンチ”

「青森県立美術館」は青木淳氏の設計により2005年に竣工しました。縄文遺跡で知られる「三内丸山遺跡」の隣に建ちます。

建物は公園から山へ抜けることができる屋外の通路を挟んで主に、美術館の収蔵庫、展示室、書庫、図書館のある四角と曲線の建物と、ギャラリーやスタジオ、ホール、研究室、事務室のあるL字状の建物に分かれます。

建物は手前のL字建物と、四角と曲線の美術館が組み合わさった形状をしている、L字建物の手前の濠は誰もが入れる「創作ヤード」奥には「三内丸山遺跡」

美術館は地下2階、地上2階からなり、展示室のほとんどが地下階にあります。設計者の青木氏は、隣接する三内丸山遺跡の「トレンチ」をそのまま美術館の展示空間へ用いる試みを実践されています。

出典:三内丸山遺跡公式HP 発掘調査の際に掘られる「トレンチ」

「トレンチ」とは遺跡の遺構を発掘調査するために掘られる“濠”のことで、本来の調査では一定の幅で平行に掘られるのが一般的です。青森県立美術館にも敷地内全体にトレンチが連続的に掘られています。

敷地内に連続的に掘られたトレンチ、「創作ヤード」とよばれる屋外のトレンチは誰もが自由に立ち入ることができる

敷地内のトレンチは主に地下1階または地下2階レベルまで掘られたものに分かれます。敷地南側のトレンチは地下1階、北側のトレンチは地下2階まで掘られています。

トレンチにホワイトキューブが被せられる

敷地全体に掘られた凹状のトレンチですが、地下2階まで掘られたトレンチの上には凸状のホワイトキューブが被されられています。実はその被さって出来た”隙間”も展示室として利用されているのです。

出典:新建築

美術品は1階にある搬入庫から搬入され、1階にある収蔵庫に収められます。展示の際はエレベーターで地上から地下の展示室に搬送されます。

トレンチの版築壁が屋内外を貫き、その上に白い煉瓦壁の建物が被さる
創作ヤードに被さった建物

来場者は1階のエントランスホールでチケット購入後、エレベーターで一気に地下2階まで下ります。

展示室へのエントランスホールエレベーター

エレベーターを降りるとそこには、タタキの土に囲まれた地下の展示空間が広がっています。床も従来のホワイトキューブのフローリングとは異なり、世界でここでしかない空間です。

EVホールより美術館で最も高い平面20m×20m高さ19mの「アレコホール」を望む

展示室の順路は途中、地下1階と地下2階を行き来するようになっています。来場者は「ホワイトキューブ」と「トレンチとホワイトキューブの隙間」を行き来しているうちに、図と地の関係が反転したかのような錯覚に陥ります。

交互に行き交う空間体験は地下迷宮のように自分が一体どこにいるのかわからなくなります。しかし途中の隙間から垣間見える、メインの「アレコホール」を元に、自分の現在位置を把握することができます。

展示室Nよりアレコホールを覗く

意図的ではなく各パラメーターの調整により決定される

この被せるという行為に大変意味があります。ホワイトキューブは人間が意図的に設計した完全な幾何学的な空間ですが、トレンチは人間が地面を掘って生まれた、凹状の濠です。

トレンチに展示された「青森犬」、敷地全体に連続するトレンチは美術館内とガラスで仕切られる

すなわち凹状の断面に矩形の箱が被さるということは、もともとそこにあったトレンチの"入隅"の空間に、内部空間(ホワイトキューブ)を意図的に設計した結果生成された、"出隅"が組み合わさることで隙間空間が生まれます。

凹状のトレンチに凸状のホワイトキューブが被さって生まれた"隙間"

ホワイトキューブとは、美術品を展示するために必要な奥行きや高さ、空調や照明、ダクトを納めるためのスペースなど、それらのありとあらゆるパラメーターを調整し最終的に生み出された結果その箱が与えられます。すなわち凸と凹による隙間は凸と凹のそれぞれの決定ルールにしたがって与えられ決定された隙間空間であると言えます。

展示室G脇に偶然生まれた展示室とトレンチの細い隙間

しかし生まれた隙間空間の内、大半は展示空間として利用されています。その隙間を展示利用するには「単なる偶然に発生した空間」のままでは、利用価値のないただの隙間になってしまいます。

すなわち“隙間”も偶然に発生したものではなく、「トレンチ」、「ホワイトキューブ」、「隙間」のそれぞれが展示に適した空間になるような各パラメーターの兼ね合いを調整して最終的に決定され与えられた、一定の条件を満たす幾何学的空間なのです。

このように与えられた条件の中に、ある一定のルールを与えることにより、設計者が各要素を決定していく上で、互いの生成過程のパラメーターを調整しながら最終決定することとなります。

オーバードライブ

従来の、設計者が意図的に決定していた平面・断面の意匠ではなく、ある敷地の条件の中で、ある一定の決められたルールを与えることで自動的に生成される過程のことを青木氏は「オーバードライブ」と呼んでいます。

今回の青森県立美術美術館の場合は、トレンチという三内丸山遺跡の与条件を生かして、設計者が凸凹を互いに噛み合わせるという決定ルールを与え、各パラメーターを調整した結果、オーバードライブによる意匠ではない建物の外観が与えられ、世界でここでしかない展示空間が誕生しました。