「大阪中之島美術館」をご紹介します!水都、中之島上空に浮かぶ立体迷宮。

基本情報

所在地〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4-3-1
アクセス・京阪中之島線「渡辺橋駅2番出口」より徒歩約5分
・大阪メトロ四つ橋線「肥後橋駅4番出口」より徒歩10分
・JR大阪環状線 「福島駅2番出口」/JR東西線「新福島駅2番出口」より徒歩10分
・阪急「福島駅」より徒歩10分
・JR「大阪駅」/阪急「梅田駅」より徒歩20分
・53号/57号系統「田蓑橋バス停」より徒歩2分
開館時間10:00〜17:00(最終入館16:30)
休館日月曜日(祝日の場合翌日休館)
入館料料金は展覧会により異なります
詳しくはこちら
HPhttps://nakka-art.jp/

中之島と美術館

「大阪中之島美術館」は遠藤克彦建築研究所・大阪市都市整備局の設計により、2021年6月30日に竣工、2022年2月2日にオープンしました。

建物は堂島川と土佐堀川に挟まれた中之島に建ち、島内には「日本銀行」や「大阪府立中野図書館」、「大阪中央公会堂」などの戦前の歴史的建造物や、安藤忠雄氏設計の「こども本の森 中之島」が建ち並んでいます。そのうち美術館は「国立国際美術館」の目の前に建てられました。

美術館は地上5階建てで、島特有の土地性により地下には諸室はありません。1階はレストランやカフェ、300席収容するホール、ワークショップルーム、駐車場からなり、それを地盤として2階は基準階としてエントランスホールや事務室が設けられます。2階は建物周囲にランドスケープや、隣接する国立国際美術館や「中之島四季の丘」から歩行デッキを設けることでアクセス可能となっています。

中之島四季の丘のブリッジより撮影, 左奥には国立国際美術館

北側アクセスは、つづら折状のスロープと階段のランドスケープが設けられ、高低差5.5m程ある2階への比較的緩やかなアクセスとなっていますが、構想段階では全面スロープとなっていました。

大阪市ホームページより, 構想当初の美術館外観

しかし有機的な形状のアプローチは、その背後に立つ直方体の美術館ファサードとは対照的に、ボリューミーな直方体を周囲の街区と距離を保つことで、緑地帯の基壇の上に乗る美しい直方体のコントラストを生み出しています。

美術館アクセスとなるスタジオテラ設計の有機的な緑地帯と幾何学的な直方体のコントラストが美しい景観を生み出す

外観の高さは36.9mで、黒いプレキャストコンクリート外壁となっています。北側のデッキには芝生の広場が設けられ、公園のように誰もがアクセス可能となっています。宙に浮いた四角い箱の超巨大ピロティはさまざまな方面から来場者を向かい入れています。

外壁の黒は、岩手さん玄昌石砕石と京都宇治産砕石、黒色顔料を混ぜたプレキャストコンクリート

水都、中之島に現れた上空の反転

2階エントランスを入ると、巨大な「パッサージュ」という名のエントランスホールが出現します。パッサージュは1階エントランスから5階まで高さ30.9mが視覚的に繋がっており、2階四方や天井トップライト、4階から自然光が入り込みます。

2階エントランスホール(「パッサージュ」), 天井高さは17,600mm
左:1階と2階を結ぶ大階段, 奥には4,5階の吹き抜けが見える
右:1階より高さ約36mの天窓を見上げる, 2階には浮いたチケットカウンターのスラブ

内壁の仕上げはプラチナ・シルバーの化粧ルーバーとなっており、あらゆる方向から差し込む光を反射させ明暗のグラデーションを映しています。チケット購入後、展示室のある4階までエスカレーターで上がり、移り変わる景色を楽しむことができます。エスカレータの先には迷宮のように奥の方まで吹き抜けが広がっており、来場者はどんどんの中の方まで吸い込まれていきます。

奥には1階と2階の吹き抜けに浮くチケットカウンター, 1階エントランスとは大階段でつながる

エスカレーターを上ると4階、5階が吹き抜けのホワイエとなっています。頭上には5階南北を貫くパッサージュのブリッジが架けられ、あらゆる方向から自然光が差し込みます。

4階より1階〜5階のパッサージュを見渡す, 左のエスカレーターは入場用, 手前は退場用のそれぞれ一方通行になっている
エスカレーター降りた先の4,5階ホワイエ(パッサージュ)を見渡す, 左に「展示室1」, 「展示室2」への入り口と手前と奥には5階へのエスカレーターと階段
5階を南北に貫くパッサージュ, 4・5階吹き抜けにはブリッジが架けられ視覚的に1階から5階までの高低差30.9mのパッサージュを視覚的に繋ぐ

4階西面には2層分の大きな開口が設けられ、階段とヤノベケンジ氏によるジャイアント・トらやんが設けられています。手前の関係者通路を収めた出隅のボックスと奥に広がる風景が、建築の屋内外が錯覚するような地と図の反転を引き起こしています。

4階ホワイエ(パッサージュ)
4階パッサージュの西側に開けられた2層分の巨大な開口, 右にはジャイアント・トらやん

「パッサージュ」とはフランスで18世紀以降、商店の路地にかけられたガラス製の屋根に覆われた歩行空間で、現代では日本でも多くの駅前に商店街としてアーケードが見られます。

商店が建ち並ぶ建物に挟まれた路地は本来誰もが行き交う屋外ですが、屋根がかかることによりあたかも屋内にいるように錯覚し、商店の外壁ファサードが屋内の内壁かのように、店内と外で反転が起きます。するとパッサージュは、リビングに面した部屋に入るような感覚で、通りに面した店舗に気軽に立ち寄るれるというのが最大の特徴です。最近の大型商業施設は大きな室内に路地のように店を散りばめた、パッサージュの完全内部空間化を図ることで快適な買い物と効率的な集客を実現しています。

内藤廣氏設計の京都鴨居堂, 大きな家の中に小さな家が収められたような, 日本建築の切妻側面×パッサージュの今までになかった建築と屋外の関係性を生み出している

建築は当然、外と隔てるための空間を作り出すために、壁や天井・床で囲い内部を構成します。その時、壁と天井・床による直角の境目、入角が内部として我々を知覚させます。入角により普段我々は建物に包まれている感覚として備わっておりますが、大阪中之島美術館では巨大な直方体の外観とは裏腹に、展示室や収蔵庫を収めた箱の外観が巨大な内部空間を構成しているのです。

出隅が現れた吹き抜けは、大きな家(屋根)の中に部屋(店舗)として軒を連ねるパッサージュのように、内と外の反転した不思議な錯覚を体験することができます。2階のピロティにやってきたひとたちは、中に収められた展示室外観(出隅)を客観視することで、そこはまだパッサージュのような屋外として錯覚し、迷宮の奥へと引き込まれます。

4階ホワイエより, 地と図が反転したような1階〜4階パッサージュ吹き抜け

パッサージュに面した展示室

展示室は4階の「展示室1」・「展示室2」と、5階の「展示室3」・「展示室4」・「展示室5」からなります。展示室1、2の入り口は2階から4階へのエスカレーター降りたすぐ左、展示室3〜5の入り口は5階を南北に貫くパッサージュに面しています。

展示室4内観

4階展示室は建物中央に開けられたパッサージュを回り込むようにして配置されており、5階展示室は5階パッサージュと並行するように配置されています。そうして各階の展示室出口は元のパッサージュに戻るような構成になっています。

出典:新建築 2階平面図
出典:新建築 4,5階平面図
展示室1と2の間に設けられた「ロビー」より反対側からパッサージュを見渡す

このように鑑賞し終えると元のパッサージュに戻るように、本来の路地に軒を連ねた商店を出入りするような構成となっていることがわかります。さらにパッサージュは、元の場所の目印として美術館全体の広場的な機能も果たしています。

北側より5階パッサージュを見通す, 奥に展示室出口
5階パッサージュ北側開口を見通す, 右奥には展示室への入り口, 出口は反対側の南に設けられる

商業施設で買い物するような美術館のノリ

水都中之島に突如現れたランドスケープ越しに見える巨大な直方体。人々は巨大なピロティを目指し吸い込まれていきます。しかしそこに広がっていたのは、水都中之島の土地性が生んだ上空へと続く迷宮なのでした。迷宮は、パッサージュのような大きな家、小さな家で構成されており、パッサージュが構成する迷宮効果により、来場者はエスカレーターの先に探究心を注がれます。

一見、凸凹した複雑にも見えるパッサージュですが、来場者はアクセス(外観)→パッサージュ(内観の外観)→最初の展示室(内観)→パッサージュ(内観の外観)→次の展示室(内観)→パッサージュ(内観の外観)→退館(外観)と来館から鑑賞、退館まで、体験する空間の種類(3種類)としてはシンプルのように思えます。巨大な外観、複雑なエントランスホールの見た目のため、もっと変化に富んだ空間体験を期待してしまいそうですが、本来の商店街のような、アクセスから買い物、帰宅と同じ体験数です。

大型商業施設のように現代ではモータリゼーションにより、遠方からでも巨大な駐車場に停めて買い物を楽しむことができます。中之島美術館も大阪の美術館として、目印のような巨大な美術館の外観から、あらゆる場所からやってきたひとに展示室へ気軽に立ち寄って、展示鑑賞の記憶をそのまま持ち帰ってほしいという、願いが表れています。

周辺ランドスケープと一体となった2階エントランスホール, 巨大な外観とは対照的に開口は低く抑えられ, その先には非現実的な巨大な内部空間が広がっている