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「京都市京セラ美術館」がすごすぎる!青木淳・西澤徹夫設計共同体 京都府京都市

基本情報

所在地〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
アクセス・地下鉄東西線「東山駅」より徒歩8分
・京阪「三条駅」/地下鉄東西線「三条京阪駅」より徒歩16分
・「岡崎公園 美術館・平安神宮前バス停」下車すぐ
開館時間10:00〜18:00(最終入管は17:30)
休館日月曜日(祝日の場合開館)12月28日〜1月2日
入館料一般:730円、小学・中学・高校生:300円、小学生未満:無料
HPhttps://kyotocity-kyocera.museum/

京都市美術館

「京都市美術館(京都市京セラ美術館)」は2019年に青木淳氏と西澤徹夫氏の共同設計によりオープンしました。京都市美術館本館は、1928年に京都にて即位した昭和天皇の大礼を記念し、1933年に「大礼記念京都美術館」として開館しました。1952年には「京都市美術館」と改められ今では現存する国内最古の公立美術館となっています。

美術館は京都市右京区にある岡崎公園内にあります。岡崎公園は1895年平安遷都1100年を記念して開催された「国内勧業博覧会」の一環として、平安京当時の大内裏(現千本丸太町)の一部が「平安神宮」としてここ岡崎に復元されました。そのほか「京都市美術館」や「京都国立近代美術館」、「京都府立図書館ロームシアター京都(前川國男)」、「京都市動物園」などの文化施設が建設され、1904年にあたり一帯が岡崎公園として指定されました。

美術館はその「平安神宮応天門」から南に伸びる神宮道沿い(東側)にあり、目の前には道にかけられた平安神宮大鳥居、道を挟んだ向かい側には京都府立図書館や国立近代美術館があります。

平安神宮大鳥居と京セラ美術館

美術館の建物は鉄筋コンクリート造の帝冠様式で、京都市の「京都市美術館再整備基本計画」のもと、美術館は2017年4月10日よりリニューアルに向けた休館がなされました。その内容は老朽化した本館建物の外観をそのままに、内装改修と耐震・空調・照明設備性能の強化、さらに現代アートなどさまざまな展示形態に対応した収蔵庫と展示室のを備えた新館の建設です。

改修工事は2018年1月より始まり、2019年10月に竣工しました。設計は公募型プロポーザルにより選定された青木淳氏と西澤徹夫氏によるものです。

メインエントランス

改修がなされた新しい美術館エントランスは、もともとあった西側広場を地下レベルまで掘り込んで、倉庫として使われていた本館地下下足室をメインエントランスとしています。南北から緩やかなスロープでアクセス可能となっており、彫り込みによって現れたスロープの傾斜に合わせてガラス(「ガラス・リボン」)がはめ込まれています。

建物の目の前の西側広場を掘り込んで地下倉庫を新なエントランスとし、スロープの断面形状に合わせてガラス・リボンがはめ込まれる 今までにない洋式建築との関係性に来場者は吸い込まれていく  既存の1階正面玄関は改修前にメインエントランス(西玄関)として使われていた

既存の平面配置に合わせて描かれた曲線のガラス・リボンは、重々しい帝冠建築を軽々と浮かせ、来場者はその建物をくぐるようにして中へと吸い込まれていきます。まさに今までに見たことない洋式建築の佇まいと言えます。ガラスリボン内はエントランスに入ると左がショップ、右がレストラン、正面がチケットカウンター・案内があるメインエントランスロビーになっており、今回新に新築された近代的な空間になっています。

地下1階ショップ 様式建築とは対照的に開放的な空間となっている
メインエントランスに入ると、元々倉庫として使われていた下足室を改修した「メインエントランスロビー」に遭遇 左側にチケットカウンター、奥が展示室への階段

中央ホール(旧大陳列室)

メインエントランスロビーを抜けると「中央ホール(旧大陳列室)」へと続く大階段が現れます。階段は今回新設されたものです。階段を上ると帝冠建築の玄関に入らずして高さ17m程の中央ホールが来場者を迎えます。

メインエントランスロビーと中央ホールを結ぶ大階段 先ほどのスロープといい階段といい既存の帝冠建築をくぐるようにして展示室へアプローチする

旧大陳列室であった中央ホールは新に、2階左右にバルコニー、それを結ぶらせん階段、バリアフリーに対応したエレベーターが設けられました。新に設けられたバルコニーは東西を結ぶ2階の動線として機能することにより、「中央ホール」は全諸室とアクセス可能となりました。

すると中央ホールは迷路のような美術館全体の広場的な空間として、来場者が自分の位置を把握できるような目印としても機能しています。

中央ホール 左側扉は「南回廊(コレクションルーム)」・「天の中庭」へ、右側扉は「北側回廊(企画展示室)」・「光の広間」へとそれぞれつながる
中央はエントランスロビーからの大階段、その両脇はそれぞれ2階バルコニーとを結ぶ螺旋階段・エレベーターになっており、いずれも今回新築された 螺旋階段・エレベーター裏にある1階両脇扉と2階両脇扉は旧メインエントランス「(西広間)」へつながる

旧西玄関・西広間

中央ホールの螺旋階段・エレベーター裏にある1・2階両脇扉を抜けると「西広間」へとつながります。改修前はここが京都市美術館のエントランスホールとして使われていました。

改修前メインエントランスとして使われていた西広間 1階奥扉は「北回廊1階陳列室(企画展示室)」につながる扉だが通常は使われていない 2階奥扉は「北側2階陳列室」へとつながり、2階右扉は今回新に中央ホール2階のバルコニー設置に伴い開口だったものを扉として改修された

図面からわかるように既存の2階の東西の導線は、北回廊と南回廊のみが結んでいました。しかし今回新に中央ホールのバルコニー設置により西広間から直接、東側の談話室、東山キューブテラスに抜けれるようになりました。そのため動線として必要なくなった北回廊・南回廊は現在、展示室として利用されています。

出典:新建築 地下1階平面図 黒線が既存、赤線が今回新に改修された部分
出典:新建築 1階平面図 黒線が既存、赤線が今回新に改修された部分
出典:新建築 2階平面図 黒線が既存、赤線が今回新に改修された部分

北回廊1階陳列室(企画展示室)・光の広間

中央ホール北側の扉を抜けると「光の広間」にたどり着きます。「ロの字」の回廊に囲まれる形でもともとあった中庭は、ガラス張りの鉄骨屋根を架けることで内部空間化されました。中庭だった頃は室外機などの設備スペースとして利用されていましたが、改修にあたり撤去されました。

北側回廊は企画展示室として使われています。回廊の北側中央には「北玄関エントランスホール」があり、展示室の順路として利用されています。

北玄関エントランスホール 南回廊にも左右対称の位置に「南玄関エントランスホール」があり、どちらもほとんど同じ造である

南回廊1階陳列室(コレクションルーム)・天の中庭

中央ホール南側の扉は「南回廊(コレクションルーム)」への入り口になっています。南回廊も中央ホールを軸に北回廊と左右対称になる形でほぼ全く同じ平面配置になっています。

回廊の南側中央には北回廊同様「南玄関エントランスホール」があります。南側玄関ホールには、曲がり階段脇に新に扉が設けられました。その扉を抜けると中庭(「天の庭」)に出ることができます。

南玄関エントランスホールにある曲がり階段 奥が「天の広場」へ通づる扉

天の庭は屋外展示スペースとしてそのまま屋外の中庭として利用されています。

天の庭 手前ガラス扉は今回新に、中庭への入り口として設けられた
南玄関ホール曲がり階段 階段上がった奥の両扉を抜けると「南回廊2階展示室」へつながるが、通常は使用されていない

北回廊2階陳列室・南回廊2階展示室

西広間2階の扉に入ると南北それぞれ「北回廊2階陳列室」、「南回廊2階陳列室」になります。南北でそれぞれ左右対称の同じ配置構成になっています。改修前は2階の動線として東西を唯一結んでいましたが、中央ホール2階バルコニー新設により展示室として利用されています。

南回廊2階陳列室
南回廊2階陳列室

東玄関・東エントランスロビー

中央ホールを突き抜けると「旧東玄関」へとたどり着きます。東玄関は玄関としての役目を終え、「東山キューブ展示室」・「東側のエントランスロビー」への動線として今回完全に内部空間化され常開となりました。玄関を出たと思いきやそこは室内なのです。

旧東玄関 中央ホールと東山キューブ・東エントランスロビーとの動線として扉は常開となった

旧東玄関を出ると「東エントランスロビー」になります。東エントランスロビーはメインエントランスに加え京セラ美術館のサブ出入り口として今回新に設けられ、通常は出場のみの一方通行ですが、利用状況に応じて出入り可能なエントランスホールとしても使用することができます。

東エントランスロビー 奥の扉が東エントランス、右扉が旧東玄関 
東玄関の目の前に併設する形で東エントランスロビーが設けられる 通常は外から入場できない

全面ガラス張りと帝冠建築の外壁によりそこは内部空間ですが、目の前の庭園と一体となった“屋外”と錯覚してしまいます。来場者に束の間の休憩場として、気持ちを切り替えて展示室に移動することができます。

全面カーテンウォールが既存の庭園と一体となる

東山キューブ(現代美術展示室)

「東山キューブ(現代美術展示室)」は京都市美術館がさまざまな現代美術の展示形態に対応すべく、今回新しく竣工しました。敷地の北東側に位置し、既存の北回廊に隣接する形で建てられました。先程の東エントランスロビーとL字に既存の日本庭園を囲うようにして展示室のホワイエ(前室)が連続しています。

既存の日本庭園を囲うようにしてL字に配置されたホワイエ 東山キューブ(企画展示室)のホワイエとしてベンチが設けられ目の前の庭園を眺めながら休憩できる
現代美術展示室

威厳さを失った帝冠建築

今回設計者の青木氏・西澤氏は、地下旧倉庫をエントランスホールとして改修しそこを美術館の入り口とし、さらにそれに合わせて目の前にあった西広場を緩やかなスロープで掘り込んで、スロープの断面形状に合わせてガラス・リボンをはめ込みました。すると既存の建築はそのままに、天井厚さ435mmコンクリートスラブとガラスの基壇に乗っかったような帝冠建築のファサードが誕生しました。

重々しく不動なたたずまいによる帝冠建築の威厳さは、近代技術によっていとも簡単に根こそぎえぐり取られ宙に浮かされ、それによる威信を失った帝冠建築のオーラは、周囲に対してその暴走を抑え込むことに成功しています。

鉄・ガラス・コンクリートによる基壇がその上に乗る建築をディスプレイに展示された作品のように扱うことで私たちの方に迫って来ず、前近代的な古くささ感じる空間がいつの間にか写真映えするレトロ雰囲気あるものとして身近に扱われようになり、見事にその立場を逆転してみせています。

特に写真映えする場所は旧東玄関越しに見るガラスと庭園です。玄関の先まで連続するフローリングとガラスがより装飾と被写体よりを際立たせ、京セラ美術館に来たらおすすめの写真スポットです。

おすすめ映えスポット旧東玄関 既存建築との融合

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