「京都国立博物館 平成知新館」をご紹介します。日本的空間構成の近代建築!谷口吉生建築設計研究所

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基本情報

所在地〒605-0931 京都府京都市東山区茶屋町527
アクセス・京阪本線「七条駅」より徒歩5分
・「博物館三十三間堂前バス停」下車すぐ
・「京都駅」より徒歩17分
開館時間9:00〜17:30(最終入館は17:00)
休館日月曜日(祝日の場合翌日休館)、12月27日〜1月1日、臨時休館日
詳しい開館日
入館料一般:1,800円、大学生:1,200円、高校生:700円、中学生以下:無料
HPhttps://www.kyohaku.go.jp/jp/

RCボックスと外界を緩やかにつなぐ装置

「京都国立博物館 平成知新館」は、1966年にオープンした「平常展示館(1965年竣工)」の建て替えとして、2013年に谷口吉生建築設計研究所の設計により竣工しました。主に平安時代から江戸時代にかけての京都を中心とした陶磁や絵巻、仏画、絵画、彫刻、書跡、染織、金工、漆工が常設展示されています。

建物は博物館内敷地の北西側に位置し、地下2階、地上4階建ての鉄筋コンクリート造・鉄骨造となっています。そのうち地下1階の収蔵庫・講堂と1階から3階のエントランスホール・展示室は鉄筋コンクリート(RC)造の大きな矩形のボックス内に収められており、ボックスの前(南側)には鉄骨造の大きな庇とアルミサッシによる二層吹き抜けの空間「グランドロビー」が付随しています。さらにグランドロビーの目の前にはテラスと水面が設けられ、グランドロビー、テラスと水面の一部はひとつ大きな庇に覆われています。

平成知新館南側立面 背後から手前にコンクリートボックス、鉄骨の庇・柱、アルミサッシとファサードを成す
コンクリートボックス前に置かれた鉄骨造のグランドロビーと水面

それら横長のRC造のボックスや鉄骨造の柱・庇、アルミサッシが平成知新館の立面を成しており、目の前に広がる水平な水面がより建物の直線をより際立たせています。すると床・縁側・日本庭園と連続した平面的な広がりによる柱・梁の平行・垂直美を誇る日本建築の佇まいのように、鉄・ガラス・コンクリートといった近代技術でその美しさを抽象的に表現しています。

日本の空間構成のような庇下空間 刻々と変化する水面は周囲を映し出し、空の変化を身近に感じることができる 左奥には「京都タワー」

グランドロビーは天井高8.1mの全面アルミサッシの開口になっており、開口上部は超透過セラミックプリント複層ガラスがはめ込まれます。天井にはトップライトも設けられ、内部に柔らかな光が充満します。それに対し見通せる透明ガラスは日本建築の開口スケールのように下2m程に抑えられています。

グランドロビー内部  開口は手前の鉄骨造の柱・梁とアルミサッシにより構成される テラス、水面、その先に広がる景色とは開口を通して一体となる 奥には「明治古都館」を望む

この抑えられた開口設計は、室内から縁側・庭園へと視覚が水平に伸びていく日本的な空間構成を思い起こさせます。例えば水面に面したテラスは縁側のように、千差万別の空を映し出す水面は日本庭園のように、テラスが水面に接し室内と連続することで、日本建築の水平に広がる床の伸びを体験することができます。

まさに京都の風景を映し出す水面に向かって床が一体となる様は、外部に向かって限りなく溶け込んでいく日本建築の床の消失の様でもあります。

京都国立博物館より徒歩10分の場所にある「建仁寺 方丈」 水平に連続的に敷かれた床・縁側・庭園の上に建つ、水平・垂直美の日本建築 縁側を経て室内の床が外に向かって限りなく消失していく

平成知新館のエントランスは水面に架けられたアプローチを渡って入ります。入り口は2m程と低く抑えられています。

平成知新館入り口

入り口を抜けるとそこは天井高さ13mのエントランスホールが広がっています。入り口からエントランスホールへは、コンクリートボックスに開けられた大きな開口を潜るようにして入り、先ほどのグランドロビーとはその大きな開口を通じてつながっております。

エントランスホール2階より 左にコンクリートボックスに開けられた開口とその先にグランドロビー 2階グランドロビーには「ラウンジ1」の床が張られており、2階ホワイエとエントランスホールにかけられたブリッジで結ばれる

コンクリートボックス内は展示室など外界からいっさい遮断された室内となっており、完全室内のグランドロビーがいきなり来場者を迎えるのではなく、水面のアプローチ、狭い入り口、グランドロビーと身体的スケールの変化と日本的な空間構成により緩やかに屋外と室内をつないでいます。

エントランスホール 奥に売店、右にグランドホール・入り口

多様な順路の展示室構成

エントランスホールから展示室へはエレベーターで3階まで上がります。下写真を奥に進み左に曲がると、エレベーター、右に曲がると1階待合ロビーとなります。

左のエレベーターコア外壁はドイツ産ライムストーンの水磨仕上げ、床は花崗岩のJW仕上げ 2、3階のホワイエがそれぞれエントランスホールに面しており、1階から3階まで階段で結ばれる

展示室は3階から1階にかけて一筆書きを描くように降りて巡る構成になっています。来場者はまず3階の展示室を西から東へ、そして折り返して2階へと降ります。今度2階は東から西へと、これを繰り返して、東西を往復しながら徐々に1階へ降りていく構成になっています。3階エレベーターを降りるとエントランスホールに面したホワイエとなります。

3階ホワイエ 左はレファレンスコーナー、右はエントランスホールの吹き抜けとなっている

展示室は東西に走る中央通路を挟んで大きく南北に分かれて並んでいます。1階北側の展示室と、2階展示室は二層分の高さになっており、断面上でそれが千鳥配置になっています。すると二層分の吹き抜けを通して各階の展示室同士が視覚的につながり見渡せるようになっています。

左:エントランスホール南北断面図 
右:展示室南北断面図

展示室を視覚的につなげることで、次自分が巡る展示室を見渡せ、今自分がいる位置を把握することができます。これは谷口建築でよく見られる手法で、ひとつの大きな空間(今回はコンクリートボックス)内に各展示室を完全に仕切ることなく配置することで、順路が迷路のように退屈になりがちな展示室構成を解決しています。

下写真は3階東側の折り返し地点となる階段を見渡しています。

左:3階中央通路 左に2階展示室が吹き抜けになっている
右:3階より2階中央通路を見渡す ルーバー越しに下階を見渡すことができる

また平成知新館は3階から1階まで一方通行の順路だけでなく、展示室内に途中でショートカットできる階段が設けられています。そのためここを初めて訪れた人や目的の展示物だけを見たい人など、京都というさまざまな観光ニーズに対応した展示構成になっています。東西を貫く中央通路を抜けると、先ほどの西側エントランスホールとは反対にある「エントランスホール2」へと出ます。両エントランスホールは1階から3階まで吹き抜けとなっており階段・エレベーターで結ばれています。それらエントランスホールの縦動線を使うことで順路をショートカットすることもできます。

3階エントランスホール2 左に展示室で入り口 奥に1階から3階をつなぐ吹き抜け

エントランスホール2はコンクリートボックスに開けられた開口と通してグランドロビーとつながります。

エントランスホール2全景 手前にグランドロビー

今度は2階を東から西へ中央通路を抜けると、最初のエントランスホールに面したホワイエへ出ます。2階ホワイエにはレファレンスコーナーとブリッジを経て「ラウンジ1」とつながります。

2階ホワイエ 左にレファレンスコーナー、右にメインエントランスホール吹き抜けと「ラウンジ1」へとつながるブリッジ
レファレンスコーナー 奥に3階ホワイエが見える

展示室を一巡し東側中央通路を出ると、エントランスホール2を経てグランドロビーに出ます。グランドロビーを通って最初のエントランスホールへと戻ります。

東側(エントランスホール2側)よりグランドロビー内を見通す