日本で最も美しい美術館 「豊田市美術館」谷口吉生設計 愛知県豊田市

今回は愛知県豊田市にある「豊田市美術館」をご紹介したいと思います。建物は「ニューヨク近代美術館」を設計したことで名高い谷口吉生氏によるものです。

「豊田市美術館」基本情報

所在地〒471-0034 愛知県豊田市小坂本町8丁目5-1
アクセス「名鉄豊田市駅」、「愛知環状鉄道新豊田駅」より徒歩15分
開館時間10:00〜17:30(入場は17:00まで)
休館日月曜日(祝日の場合、翌日閉館)
入館料一般:300円、高校・大学生:200円、中学生以下:無料(特別展は別途料金)
ホームページhttps://www.museum.toyota.aichi.jp

迷いに迷ってたどり着く美術館

本当にこの先に美術館があるのか?

まず最寄駅から美術館に行く際、一体美術館の入口がどこにあるのわかりませんでした。

というのも美術館は木々の生い茂った小高い丘の中にあるのですが、美術館のエントランスらしいモニュメンタル的なものはなく、本当にここが入り口なのかと思うほど、美術館へのひっそりした一本道があります。

そしてその一本道はまるで神社の山道かのように、周りは木々に囲まれ、特に事前に美術館のことを知っていて初めて訪れた人にとっては、「本当にこの先に美術館があるのか」と不安感に襲われると思います。

またその一本道は、日常的な風景からだんだん切り離されるかのように、美術館への期待と高揚感を感じさせるものでもありました。

心に迷いを抱えながら細い道を行った先に、ようやく美術館らしい広場が出現し安心感を感じる

安心したのもつかの間、どっちに行けばいいのか

そしてついに、一本道の先には美しい直線の美術館が出現します。

来場者はやっとの思い出たどり着いた美術館の出現に安堵します。

しかしここで次なる問題に遭遇します。それは建物の入り口がパッと見わからないということです。

写真からもお分かりになられると思いますが、スロープを登った方がいいのか、それとも石畳を直進した方が良いのか.........。

垂直の壁のリズムが奥まで連続し、スロープの上に何があるのか気になる

正解は石畳をそのまま直進するとエントランスがあります。下の図面でいうと「A」の箇所です。また石畳を左に曲がってももうひとつエントランスがありますが本当に迷います。

Bのエントランス内観、右奥にチケットカウンターがある
Bのエントランス入口

開放的な広場とは逆に閉鎖的な廊下とメインエントランス

なぜエントランスに迷うのかというと、先程の開放的な広場とは対照的に、美術館のエントランスが低めに設計されているからです。

AとBエントランスを結ぶ廊下

エントランスと二つのエントランスを結ぶ廊下は控えめで、先ほどの広場に対して閉鎖的であることがわかります。

廊下から広場を望む、奥に先にはほど進んできた「参道」が見える
「A」の低い天井の空エントランスから広場を望む

このようにエントランスと廊下が外と切り離されるように低く設計することで、今まで辿ってきた広場を切り取られたシーンのように眺められるとともに、これからアートを鑑賞する来場者を、建物に対して内向きになるように仕掛けています。

エントランスの梁が余計に低いことで、外の景色が切り取られたシーンのように見える

考え抜かれた空間体験が快適な鑑賞をもたらす

感動の階段

チケットの購入を済ませ、メインエントランスを進むと開放的な階段が出現します。

閉鎖的なエントランスとは対照的な「展示室1」への階段

閉鎖的なエントランスに急に出現した大空間に思わず来場者は感動せずにはいられないでしょう。

このように美術館へのアプローチからどこかわからないエントランス、開放的な階段と、思いもよらないことだらけです。道中いろんなことがありましたが、これでやっとアートを鑑賞できます。

階段の上から見下ろす

さらに来場者は次の仕掛けに期待をよせます。

いよいよクライマックスへ (展示室1)

階段を上り切り、奥に進むとそこは巨大な真っ白な展示室が現れます。

非日常的な空間体験

展示室は空調機の「ボー」という音だけが響き、また微かな風もずっとそこにいたいと思わせる空間です。

美しい階段
自然光で光の変化が様々な表情を生む

明快な展示室計画

「展示室1」の階段を上ると「展示室2」を経て「展示室3」へとつながります。

通路と展示室同士は完全に仕切られておらず、ひとつの大きな空間のなかに配置されていることがわかります。

そのため鑑賞者は自分がどこを通ってきてそしてこれからどこを通るのかという、「導線」可視化されているため、快適に次の展示室に移動できます。

階段を上り、展示室2へ
展示室2から3へつながる導線、大きな空間を完全な壁で仕切らないことで、明快な導線もたらす
展示室3

美術鑑賞に浸った鑑賞者に休憩を

「展示室3」を出ると、緩やかなスロープとともに小高い丘の上から街の景色を見ることができます。

緩やかなスロープが遠近感を与え、この先へと導く

このように美術の鑑賞の過程で「外部」という要素を取り入れることで、美術鑑賞に浸っていた自分からいったん解放され、気持ちを切り替えてこれからの美術鑑賞に新たな気持ちでのぞむことができます。

また自分が今、建物のどの位置にいるのかを確認することができるので、ストレスなく美術館内を移動できます。

明快な展示室計画2

緩やかなスロープを進むとその先には「展示室4」がありますが、「展示室4」の手前で今まで通ってきた展示室を見渡すことができます。

スロープを上った先の通路、写真右奥で展示室全体を見渡すことができる

このように自分がどこを通ってきたのかを示すことで、自分の現在位置を確認することができるので、快適な芸術鑑賞をもたらします。

「展示室1」を見渡す
展示室4

さらに展示室4を出ると、最初の階段の全体を見渡せすことができます。

このように全ての企画展示を見終わると一瞬で美術館の全体配置がわかるようになっています。

展示室4を出ると最初の階段を見渡すことになる

そうすることで来場者は全てを鑑賞したという満足して帰ることができます。

右下は展示室5へ繋がる

彫刻テラス

水平が生み出す建築の表情

1階エントランス廊下の階段を上ると彫刻テラスに出るようになっています。

階段を上るとシーンを切り取ったかのように水面が現れる
水平と垂直のなす絶対感

谷口氏によると、水を使うことで絶対的な平面を作ることができ、建築の前の水平面が建築に安定感を与えるといいます。

さらに建築の前にある水は人と建築の距離をコントロールし、見えるけど近づけない関係を作り出し、空や周辺を映し、時間、季節、天気によって変化する建築の姿を水面の動きや色彩の変化により多様に変化して見えるようになると言います。

このように水を使い、日々の暮らから美術を水やそれらの風景をより切り離し、また繋ぎ、美術館に至るまでの鑑賞者の意識に変化をもたらします。

スロープは先程の広場につながる
彫刻テラス
さっき通った景色の見える緩やかなスロープ、張り出していることがわかる
水面が生む建築の表情

豊田市美術館建築概要

設計/谷口吉生設計研究所
構造設計/構造計画プラス・ワン
構想協力/斎藤公男
敷地面積/30,041.35㎡
建築面積/6,624.28㎡
延床面積/11,396㎡
構造/鉄筋コンクリート造(一部鉄骨鉄筋コンクリート)
外部仕上げ/外壁:米国産スレート,高透過Low-eペアセラミックプリントガラス,アルミパネル,床:米国産スレート,アフリカ産みかげ石
竣工/1995年