東京の住宅街の一角にある「Tokyo Apartment」。住戸は全部で5つあり、1住戸あたり2〜3の部屋が積み積み重なって構成されています。設計は藤本壮介氏によるもので、各住戸とそこに住む住民、そして街との関係性に注目してみると面白い集合住宅であることがわかります。

プリミティブな空間

建築には必ず境界線が生まれます。例えば、部屋と共用部、家と都市、内と外、人工と自然、幾何学と非線形といったような感じです。しかしプリミティブな世界ではどうでようか。鳥はかき集めてきた枝を円形に整え、巣をつくります。縄文人は洞穴を見つけ休憩したり、土を掘って寒さをしのいでいました。果たしてそこには境界線はあるでしょうか。藤本氏によればそれは自然界の濃密さにおける濃度であるに過ぎないといいます。つまりどういうことかというと、鳥にとって心地よい巣は結果として自然の秩序の一部に過ぎず、洞窟ももともとそこにあり、そこに人間が住みつきます。いずれも内外の境界線どころか、自然界の濃淡の中に過ぎないのです。

境界線が曖昧な建築といえば、内外が一続きになった空間を設計する伊東豊雄氏や、周囲の自然環境と限りなく同化させたような建築を設計する藤森照信氏が有名ですが、藤本氏は壁によってできる0か1の空間ではなく、前提となる内外を否定し、最初からどちらがどちらかがわからない建築を提案する建築家です。

もともと昔からそこにあった空間「Tokyo Apartment」

住戸内で他の部屋に移動する時は、部屋同士結ばれた階段で移動します。すると部屋を移動するための階段は、他の住戸の屋根の上にかけられてますので、それぞれの住戸はその住戸内で完結することなく、互いの部屋が互いの部屋を助け合って成り立っていることがわかります。また他の部屋に移動する時はいったん外部を経由しなければならないので、私の空間と都市の空間が混ざり合った曖昧な建築であることがわかります。それでいて住戸自体は独立性の高い部屋で構成されているので、建築デザイン的にも優れていることがわかります。


住戸同士が協力しあってできた住居
互いの部屋が複雑に絡み合う